「お前さま、この石の上に座るつもりけぇ?」
「ええ。悟りが開けるまで瞑想するつもりです。悟れなければこの石の上で死にます」
「あれまぁ、そりゃ大変な覚悟だ。それじゃ、尻が痛くならんように、わしが草でも敷いてやるべぇ」
そう言いながら、サガと名のる老人は周辺からたくさん草をかき集めて石の上に敷いた。
「じいさん、ありがとう」と礼を言うと、彼は結跏趺坐した。石の後ろに大きな木が生えていて、頭上に適当な木陰を作ってくれていた。
この場所に来る前に、彼は村のスジャータという名の娘から乳粥の供養を受けたので、体力も気力も充実していた。
昼夜分かたず瞑想すること七日間。八日目の明けの明星が輝きを増した時、ついに彼は豁然と悟りを開いた。
時に12月8日未明。釈迦国の王子、夫、父という立場を捨てて城を出てから6年の歳月が流れ、35歳になっていた。
彼の座った石は、その誓いの固いことからやがて金剛座と呼ばれ、頭上に木陰を作っていた木は、菩提(悟り)を開かせたことから菩提樹と名づけられた。
遠い昔、インドのブッダガヤでの出来事である。