昨日(彼岸中日)、家内と二人で玄関でお線香点けをしていた時に、本当にあった話である。70歳半ばの檀家のオヤジさんがお線香を買いに玄関に入ってきた。「二束ください」と言われて家内の様子が変わった。一瞬凍りついたようになった。普通ならそつなく「今日は寒くなりましたねぇ」などと言いながらお線香を点けるのだが、その時は黙って点けた。「はい点きました」とオヤジさんに渡すのも、どこかぎこちなかった。オヤジサンが玄関から線香の煙と共に出て行くと、家内は私に言った。
「今のご主人、去年なくなった方よね」「はあ?」「あの人、去年なくなってるわよ」「ふつう、死んだ人はお線香買いにこないよ」「でも、亡くなったのはあの人よ。私どこのお墓にお参りするか見てくる」と家内は彼を追った。
二分ほどして、家内が首をかしげながら帰ってきたので私は尋ねた。「どうだった?自分のお墓の中にスーッと入っていったか?」「違った。私別の人と勘違いしてたみたい。亡くなったのはSさんだったけど、あの人Oさんだった。私、今までOさんのことをSだと思ってた」 言われてみれば確かに年も、容姿も似ている。
密蔵院の檀家さんは、お墓参りをする時に後ろから寺の者がついてこないか確かめたほうがいいかもしれぬ。ひっとしたら「亡くなった人」と思われているかもしれないからだ。わはははは。