その彼は総本山に勤務していた。長男が大学を終えて総本山で二年間の更なる修行を研修生としてすることになって、師僧たちがその入所式に招かれた。研修生と師僧や親たちが別れて、私たちだけ残って、今後の指導について説明を受けた。
彼は言った。「この二年間を終えて本山をおりる時には、小僧としてやるべきことはすべてできるようにしてお返しします」--大学からの知り合いだった5つ後輩の彼の言葉は、自信と責任感にあふれていた。「こいつが本山にいてくれれば安心だ」と思った。
一度本山を退職した彼は、一昨年再び本山の執事として復帰して、本山の運営にその力を発揮していた。しかし、昨年夏に体調くずして本山をおりた。そして去るバレンタインデーの日に51歳で帰らぬ人となった。「2年間で、どこに出しても恥ずかしくない人間に仕上げます」--なかなか言えるセリフではない。厳しいだけではすまないはずである。お通夜に同行した長男の目には、自分をそんなふうに仕立ててくれた恩人との別れの切なくも熱い涙がが流れていた。