最初にお断りしておきますが、これからの話は史実にきっとったものではありません。
長い間゛講談や浪曲などで、人の生きる道として脚色されたものであることをご承知おきくだされ。
されば、でござる。
九州細川家へ任官した宮本武蔵。老中の推挙を得るが、ここでもう一人の老中が、巌流の使い手、佐々木小次郎を推挙。
では、お手合わせということになる。
すでに、六十数回にわたり、剣の道を究めつくすために、真剣勝負を重ね、負けることがなかった武蔵であった。
勝負の会場は、関門海峡の舟島(ふなじま)。
小次郎は、武士らしく勝負の時刻前に舟島へ到着するが、武蔵は兵法のゆえか、かつて何度も使った戦術であるか、だいぶ遅れて、船頭佐助の櫓によって、到着する。
「武蔵!時刻に遅れて来るとは、卑怯なるぞ。それでも武士か、侍か!いざ勝負!」
と小次郎は刀の鞘を抜き払って投げ捨てる。するとそれを見て、武蔵が笑う。
「ぐはははは。小次郎、破れたり!」
「まだ勝負もしていない内から、破れたりとは何事ぞ、武蔵。乱心したか」
「何を申す。勝つ身であれば、なぜ鞘を捨てた。鞘はおぬしの天命。それを捨てたのだ」
「何をこしゃくな武蔵。目に物みせてくれん!」
小次郎大上段に構え、武蔵は正眼の構え。
間合いを見て、小次郎が斬りかかる。
武蔵は跳ぶ・・・・。
よほどの手練(てだれ)でなければ、その勝敗は見届けされなかったと言われる。
舟島へ来る途中の舟の中。船底に捨てられていた櫂を削りし木剣は、目にも止まらぬ速さで、小次郎の頭部へと・・・。
こうして、勝負は決した。武蔵は、再び佐助の舟に乗る。
「いやぁ、武蔵さま。わたしには、いったい何がどうなったか、まったくわかりませんでした。それにしてもお見事でござい・・・」
見ると、武蔵は背中を丸め、海面を見つめて黙っている。
「一体、天下の剣の名人がどうしたことでございます?あれ、武蔵さま、お前さま、泣いておいででございますのか」
--天下無双の武蔵はなぜ泣いていたのか・・・。今日はここまで。この続きは次回、お取り次ぎ申し上げます。
浪曲では、この話は現在、「蔵出し浪曲名人選14」四代天中軒雲月、国本武春「巌流島 うた絵巻」の二種のCDでお楽しみいただけます。

