
空気中よりも水中のほうが音がより伝わるのは良く知られた話だ。
しかし、土中も水中と同じくらい伝わるらしい。
密蔵院の土のなかでは、蝉の幼虫たちによって、こんな会話が交わされている。
「ねぇ、そろそろいいんじゃいな?」
「うん、僕もそう思う。そろそろ出ようよ」
「でも、大丈夫かなあ」
「何が?」
「だって、出でさ。ほかに仲間たちが出ていなかったら大変でショ」
「だねぇ。7年も土のなかにいて、外へ出で、羽のある姿になったら、あと一週間で死んじゃうんだものね」
「そうだよ、その一週間の間に、伴侶を見つけないといけないんだよ」
「出てみたら、まだ誰もでて来なかったなんて、洒落にならないしね」
「そうだよ。恋に焦がれて鳴く蝉よりも、鳴かぬ蛍が身を焦がすってね」
「なんだか7年も土のなかにいる間に、風流な言葉を勉強したんだねぇ」
「うん、けっこう暇だったからね」
「それにしても、外からの温かさが土の中にも浸透するくらいだからさ。そろそろいいんじゃない?」
「そんな気もするけど・・・どうする?」
「行く?」
「出る?」
今年鳴く蝉は、小学校一年生と同い年。
この夏、いったい全国で何百万の蝉が”恋に焦がれて鳴く”のだろう・・・。
---そんなことを思う、梅雨の暑さです。
