
さて、お地蔵さまが、どうしてお地蔵さまになったのかという経緯(いきさつ)について、縷々(るる)申し述べております『十王経』。
ここでもう一度、状況設定を確認しておきましょう。じゃないととにかくヤヤッコシイのであます。
まず、場所はお釈迦さま入滅の地、沙羅の林の中での出来事です。
お釈迦さまが、オーラを放つと、林の中に地獄の十人の王さまやその他の鬼神たちが姿を表します。
そして、王たちの「地獄の闇をお釈迦さまの教えで照らしてくださいませんか」との要望に答えて、人が亡くなってからのことをお釈迦さまが詳しく描写し始めます。
ここから、場面は(映画になぞられて、カメラと言ったほうがいいかもしれません)お釈迦さまの説明する描写の中の場所へと次々に移動していきます。
やがて、人が亡くなって35日目にやってくる閻魔の王宮へと場面は移り、さらに王宮内の建物、善名称院(ぜんみょうしょういん)のホールへとカメラは入っていきます。
そこには中央の方形の座を囲んで四つの座、合計きれいな宝石で飾られた五つの座があります。
その座が何をする場所なのかの説明が説明される中で、中央の座がお地蔵さまが座禅をする場所。そして、周囲の四つの座が人々を救いにいくために変身する座であることがあかされました。
ここから、場面は、一気に昔の昔のその昔のどこかの国へと移ります。
そこにいるのは、覚華定自在王仏を熱心に信仰している女性(実は地蔵の前世の姿)。
その女性がお母さんが地獄に堕ちていることを知って一生懸命お祈りしていたら、8日目に覚華定自在王仏が彼女の前に現れて、さまざまなことを告げます。
これを聞いて、女性は大喜び。
「それなら、私は大丈夫になれますね」と言った。―――ここまでが前回までのお話。
・・・・・ナンダ、ここまでの説明でずいぶん長くなってシマッタナ……。でも、キリのいいところまで、おつなぎ申しし上げますので、おつきあいください。
☆ ☆ ☆ ☆
さて、「大丈夫になれますね」(大丈夫の意味はこのあと説明します)という言葉を聞いて、覚華定自在王仏は喜びました。
「いいねぇ、いいねぇ。とてもいいよ。そなたの願いを今かなえてしんぜよう」と言うと、ゴゴゴーッと地鳴りがします。そして、天から華が舞いおちてきました。
その時、
「(私は)忽然として変じて大丈夫の僧となる。すなわち大乗の第三果を得る」とお経に書いてあります。
つまり「覚華定自在王仏さまがそういったとたん、私は大丈夫のお坊さんの姿に変身してしまったのです。つまり大乗仏教で得ることができる三番目の成果を得ることができた」ということです。
大乗仏教での第三果というのは、不退転(ふたいてん)ということ。悟りへの道と人々を救うという道を、もう後戻りしない心の状態のことです。前進あるのみ。
これに対して「退転」は、時には休んだり、心がふらついてしまう境地のことを言います。
この大乗の第三果のことを、別名「丈夫(じょうぶ)」と言います。それに「大」がつくのですから、「大丈夫」はけっしてゆるぐことがない強い決意のことを指します。---ああ、いい勉強になりましたねぇ(かくいう私、芳彦が一番勉強になりました)。ぐはは。
・・・さて、女性がお地蔵さまの姿に変身したのを見て、覚華定自在王仏は言いました。
「この姿になったのなら、無仏といわれる世界でもたえていけます。
いいですか。未来に、釈迦牟尼仏という仏が出ます。いまは忉利天(とうりてん)というところにいるのですが、あなたが今お地蔵さまになったのを知って、仏になった世界でご自分が死んだあと、その世界の人々をあなたに任せたいとお思いです。
その世界は、とにかく悪いことをする人がたくさんいるのです。あなたでなければとても手に負えないそうです。
その世界に行って、悪いことをした人々を救えば、何億といる菩薩たちの働きの比ではありません。
あなたが、今地蔵の姿となり、釈迦牟尼仏からそれだけの信頼を受けたのを記念して、あなたに言葉を贈りましょう」
――覚華定自在王仏はそう言いました。
“悲しい母を救った素敵な願を持つあなた。
だから、世の中で母の教えに素直に従う子供たちはみんな、みんなお地蔵さま。
地蔵のことを一生懸命念じれば、地獄や餓鬼や、畜生、修羅の苦しみを代わって受けてくださいね〔「代受苦」(だいじゅく)と言います〕。
まさに正しい指導者がいたら、帝釈天となって擁護し、
アホな指導者がいたら閻魔となって此奴(こやつ)を罰する。
極悪人の漂う海には、助ける者とてなし。
しかし地蔵の願いの船に乗るならば、安らかな岸にきっと渡れます
地蔵の船に乗るならば、地蔵の船に乗るならば……”
そう言いながら、覚華定自在王仏は姿を消しました。
以来、お地蔵さまは毎日、この善名称院で座禅をしてから、人々を救いに行かれるのです。
お釈迦さまから以上の話を聞いた閻魔大王やその他の王さま、鬼神たちは、感激に身を震わせました。
「そうなんですか。やっと善名称院の秘密がわかりました。すっご~~~い!おい、みんな!これからは今まで以上にお地蔵さまのお手伝いをしよう」
「そうしよう」
「おお、やるぞ」
―――こうして、善名称院でのお話は終わります。
今回は、たいへん長い文章(原稿用紙九枚分)におつきあいいただきまして、ありがとうございました。
さて、次回は六七日(ろくしちにち)、四十二日目へとまいります。
