
のっし、のっし、と出てきたのは、巨大な象、エレファントであります。それもなんと牙を6本も生やしています。
この六本の牙が、布施、持戒、忍辱、精進、禅定、智恵を表しています。仏教大好き人間ならば、ご存じのことと存じますが、この六つは称して「六波羅蜜」。――悟りに至るための六種類の実践行のことであります。
この実践をすれは、まず怖いものはないということで、地上最大の動物である怖いもの無しの象に生えているのです。
ひょいと見上げると、象の背中の上に飼い主がまたがっています。普賢菩薩であります。
三七日には智恵の代表者の文殊菩薩が「邪淫」について弁護をしてくれましたが、普賢菩薩は「嘘」の弁護をしてくれるために現れたのです。
「あれまあ、普賢さま。どこに行ってたんですか」と五官王。
「うん、ちょっと、旭山動物園へ行ってました。いやあ、楽しかった、楽しかった。」
「なんだか子供みたいな喜び方ですね」
「だってね、動物たちが生き生きしてるんですよ。私は何よりそれが楽しかったのです」
と、さすが慈悲の権化(ごんげ)の普賢菩薩。
「で、今日の亡者の嘘の数値はいくつですか」
と、五官王から数値の書かれた紙を受け取ると、しばらくフムフムと見ています。
「ゲゲゲっ、こんな大きな嘘数値ですか。うっそぉ~。どうすれば、こんなにたくさん嘘がつけるんでしょう」
「なに、嘘を隠そうとすれば、嘘の上塗り、やがて鼠算式に嘘が増えていくものです」
「嘘を隠し通せると思ってたんですか?」と今度は亡者に尋ねます。
「私が黙っていれば、隠し通せると思ってました」
「そうなんだ。あなた以外の他の誰もあなたが嘘をついていることを知らなくても、あなた自身は知っているわけでしょう。」
「そりゃ、そうです」
「それは、一番知っていてはいけない人が知っていたということなんですよ。嘘をついて一番裏切っているのは、自分自身なんですよ」
普賢菩薩は続けました。
「他の人はあなたが嘘をついていることを知らなければ、それはそれでどうということはないのです。でも、あなたは自分が嘘をついていることを知ってた。
自分が裏腹な人間であることを、誰よりあなたが一番良く知っていたんです。
にもかかわらず、そんな重大なことにずっと心の目を背けてきてしまったんですね。
嘘という重い重い荷物を背負い続けた人生だったのですね」
「………」
「もったいない人生でしたね」
亡者の目が、後悔の涙で潤んできました。
「しかし、王様」と普賢菩薩は五官王に向き直りました。
「この者の遺族が、娑婆で善や福の功徳を積んで、この者に回向しております。数値を減ずることができないのは承知しておりますので、遺族の功徳のことを、その備考欄に書いて置いてくださいね」
「かしこまりました」
「さあ、亡者よ。後悔の涙をぬぐいなさい。そんなことをしている暇はあなたにはないのです。なぜなら、次の五七日(ごなのか)にはいよいよ、これまでの結果を携(たずさえ)えて、閻魔大王の王宮へと行かねばなりません。私だってあんな所には行きたくない、それくらい嫌なところです」
さて、話はいよいよ亡くなってから35日目。第五番の閻魔大王の王宮での取り調べへと差しかかってまいります。
◇ ◇ ◇ ◇
今日はお盆の迎えの法要が13時からスタートでした。密蔵院のこの法要は、ご家族連れが多いので、私はとってもうれしいのです。
あんまりうれしいので、お盆とは関係のない「早太郎」の話をしてしまいました。みなさん、固唾を飲んで熱心に聞いてくださいました。
