
フムフムと初江王は、亡者の罪科(つみとが)伝票の「盗み」の項目を見ます。
「盗人(ぬすっと)数値、34万か……」
亡者は、34万という数値が大きいのか少ないのかわかりませんから、不安な面持ちで控えています。
「このままでは、地獄行きは間違いないのぉ」
「ぐぇっ!私はそんなに盗みはしておりませんが」
「子供のころのことじゃ。家で、一つ余った饅頭をお前は盗んで食べたではないか」
「だって、あれは通称“遠慮の固まり”でございまして、残った一つを食べる人は勇気があると親戚のおばさんに言われたので食べたのです。私は勇気を以て…」
「たわけ者め。その時、弟が悲しそうな顔をしていたのをお前は気づくこともなく、『半分食べる?』とも聞かずに、一口で頬張ったではないか。ここにそう記されておるぞ。これで200ポイントじゃ」
「たったそんなことで200なんですか。でもそれにしても34万というのは合点がいきませんが」
「では教えてやろう。お前が学生の時のことじゃ。友達と駅で待ち合わせをして30分も遅れたことがある、とここに書かれているが」
「約束の時間に遅れることと盗みとどういう関係があるのでございますか?」
「バカめ。人の時間を盗んでおることに気づかぬのか。おまけに、時間を盗んだ時間は、返すことはできないのだ。先程の饅頭なら、別の時に残ったポトテトチップを弟にくれてやるとか、買ってやることでポイントは減少するが、時間はそうはいかぬのだ。人の時間を30分盗んだ。これで300ポイントじゃ」
「10分で100ポイントなんですか。けっこう分かりやすいですね」
「何を呑気をことを言っておるか。そんなことでは以後の時盗人(ときぬすびと)にも気がつくまい」
「まあ友達や、女房とつきあっていた時なんか、結構時間に遅れることがありましたけど、それにしてもそんな膨大な時間にはならないと思いますが」
「わははは。とことんバカであるな。結婚して5年目のことじゃ。お前は妻に言われたことを忘れたか」
「はっ?何のことでございます?」
「『私の青春を返してよ』と言われたではないか。青春時代は長いぞ。それをお前は盗んだのだ」
「えっ?あんなの夫婦の冗談ですよ。冗談に決まってます」
「残念ながら、冗談ではないのだ。その証拠にお前の妻は、未だに亡きお前のために功徳を積もうとしていない。『あなたと一緒にいて幸せだったわ』という妻の言葉をお前は、生前聞いたことがあるか?」
「………」
「どうじゃ34万ポイントの意味がわかったか。では、お前は三途の川の最も深いところを渡ってもらおう。こやつを、引き立てぃ!」
こうして、二七日で「盗み」についてお調べを受けた後、溺れて死にそうになりながら向こう岸へとわたります。渡ったところが、三七日(みなのか)の宗帝王(そうていおう)の宮殿前の広場になっています。
へとへとになって、ようやく岸にたどりつきますが、がっ、がっ、がっ……、何やら広場を埋めつくしています。
さあ、どうなる!
◇ ◇ ◇
秋のお彼岸に行う『写仏展覧会』のために、お預かりした絵の表装のため、書道用品店へ。
規格外の紙が多いので、それぞれ指定するのに70分もかかります。
午後は監修を依頼されている『空海』関係の本の原稿を楽しく読書。はやりプロのライターは文章がうまいと、我が非力を嘆きつつ。
加えて、自分の本の「まえがき」のリライトを指摘された部分をコチョコチョと手直し。
そして、「十王経」の資料をいつくかザッと読み流しての、ブログの更新であります。
来客を交えての8月7日は、こうして暮れていきます。
