
「なぜ、私のもとに来ない?さあ、おいで。この母が分からないの?」
ヒンカラは黙ったまま、動こうとしませんでした。
お釈迦さまはハリティに言いました。
「この子は、お前が人の子供を取って食わないという自分の殻に閉じこもるような考え方を敏感に感じているのだ。そしてまた、今までの罪をどのように贖っていくか、そのような行動に発展しないしないことを承服していないのだ」
ハリティは深く感じ入った様子でした。鬼女は自らに納得したように深く頷くといました。
「出家よ。今、私はようやく分かった。自分の犯してきたむごい事々を。私は誓おう。以後、私は全ての子供の守護者となることを。全ての禍(わざわい)から、子供たちを守ることを」
こう言い終えると、鬼の形相がみるみるうちに優しい顔になりました。
すると、ヒンカラは母の元へと足を進めて抱きつきました。
お釈迦さまは、彼女の誓願を聞くと、懐から吉祥果(きちじょうか)という実を取り出し、ハリティに渡しながら言いました。
「この実は、わざわいを除く力を持つと言われている。お前の誓いが成就するように、この実をお前に進ぜよう。心して奉持(ほうじ)せよ」
ザクロに似た吉祥果を受け取ったハリティは、お釈迦さまに深々と頭をさげると、ヒンカラを連れて住処(すみか)へと戻っていきました。
それから数カ月たったある日、お釈迦さまは、ハリティが人々から「鬼子母神」と呼ばれ、多くの子供たちを救い守る活動を始めたことを聞き、ニッコリと微笑(ほほえ)まれました。
※お釈迦さまがハリティに人肉を食べさせないように、味が似ているザクロを与えたというのは俗説です。
今日も大勢の方々が、入谷の鬼子母神の縁日にちなんだアサガオ市を訪れることでしょう。
