
大学を卒業して栃木県の高校で教師を一年間していた。
担任だったクラスの生徒が
「先生、夏休み喫茶店でパイトしてっから、きてくれよ」
別に彼の売り上げになるものではないが、どんな働きぶりか行ってみた。
店での彼は、学校でのひょうきんな態度に真面目さをちょっと加えた、青年らしさがあった。
「そんじゃ、アイスコーヒーくれよ」
……
「はい、お待ちどうさまでした。アイスコーヒーです」
彼が持ってきたアイスコーヒーはかなり異様だった。
グラスの上のほうに5、6個の溶けかかった小さな氷が浮かんでいる、どうみても冷たそうに見えぬシロモロだったのだ。
彼は私にだけ聞こえるように、小さな声で言った。
「先生、氷を沢山いれると、コーヒーが少ししか入らないんですよ。先生はコーヒー好きだろうから、コーヒーが沢山入るように氷を少なくしといたからね」
「……、あっ、ありがとうな」
あれから27年だ。少しの氷が上に浮いているコーヒーを見ると、いまでも半田という生徒と彼の氷に託した優しさを思い出す。
