名文家の誉れ高い内田百閒の『御馳走帖』をようやく読みおえた。付けた犬耳(ドッグイヤー)は20耳に及ぶだろう。大いに笑い、感心させていただいた。作中「牛乳」と題されたエッセイに、明治の頃の牛乳の話がある。当時の家々では必ず牛乳を土鍋で沸かしてから飲んだそうだ。少年時代の百閒はその様子をそばで飽きずに見ていたようで、その一文が傑作。「初めに牛乳の表面に細い皺が走ったかと思うと薄皮が張って土鍋の内側の縁に小さな泡がたまって来る。どういうわけだがその小さな泡を牛の子だと言って教えられた」(現代表記にしました)。あはは。温められた牛乳にできた泡を「これは牛の子だよ」と百閒の隣で教えたのはたぶん母親だろう。私は小さな子どもと一緒に牛乳を温める時、「これは牛の卵だよ」と教えようと思った。
和尚ブログ ほうげん日記
2019年05月29日