赤穂浪士の一人赤垣源造は討ち入り前夜、塩山家の養子になった兄に今生の暇乞いをせんと、江戸の家に訪ねるが、兄は留守。女中のすぎに聞くと帰りは遅くなると言う。この夜に本所松坂町に集合予定だから帰りを待つわけにはゆかない。源造はすぎに「兄上普段着の紋付きを持ってまいれ」と命して、着物を長押(なげし)にかけ、その前に、どっかと座ると、持ってきた徳利を傾けて「さあ、兄上。一献(こん)召し上がれ。源造、お流れ頂戴つかまつる」と着物に向かって杯を献じながら、自分がガブガブと飲む--ご存じ『忠臣蔵』のスピンオフ作品、『赤垣源造、徳利の別れ』の一場面である。明晩は兄の柩の前で、これをやろうと思っている。だから、今日は飲まない。たった一人の弟である私がしたい、兄との切なくも愉快な明日の通夜なのである。
和尚ブログ ほうげん日記
2016年07月03日